labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

デカルト 数学・自然学論集〔後日譚〕

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デカルト 数学・自然学論集』は、デカルトの遺稿集やメモ、ノートだけでなく、他人が書いた日記や入門書の集成である。我々が今回訳したものは、あまり一般の関心を買わないであろう、デカルトの数学・自然学に関するマイナーワークと見なされがちなものだ。しかし、デカルトの数学・自然学や哲学の生成に関わる非常に重要な論点も数多くあり、今後のデカルト研究や科学思想史の発展に少しでも寄与できれば幸いである。

扱っているテキストが極めて複雑であり、しかも文献研究のレベルが高い「デカルト」ということもあって、翻訳に当たっては細心の注意を要するところが多かった。翻訳の作成も大変だったが、編集もまた至難のわざであっただろう。私の分担したところでは、内容の理解が追いつかないまますでに粗訳が出来て、出版が差し迫ってきた段階で、ガリマールから新しい仏訳解が出版されるなどして、テキストの理解を補いながら校訂を進めていかざるをえなかった。さらに原典のページ数や、注番号がズレるなどで、最後の方は内容の理解とは異なる形式的な体裁を整えるところでも大変な思いをした。

私の担当箇所は、特殊な数式がわりと多いので、LaTeXという数式処理に秀でたソフトで原稿を書いていたわけだが、全員がTeXを扱えるわけではなく、Word原稿とTeXで作ったpdf原稿をどう調整するかも問題になった。最終的には編集者の郷間さんが、InDesignでうまく調整してくれた。校訂段階に入ってからは、校訂作業で読み直していくたびに、新たな理解と訂正、追加の注などが発生し、ついには編集者が夢にまでうなされたというから、編集者の負担も尋常ではなかったことが推し量られる。今回の出版で、校訂作業の悪夢からようやく解放されたことを願ってやまない。

翻訳作業の開始は、もはや記憶が定かでないが、今から5年くらい前の201X年にさかのぼる。5年もあれば、翻訳の精度の高い、脚注・解説も充実したものができるはずだが、あくまで片手間で翻訳をしていて、デカルトの初期数学論そのものを研究の本対象としていない身としては、専門の壁は高く、作業するには結構短い期間であった。

それでもいちおうの完成にこぎつけることができたのは、偉大なデカルト研究の先輩方のおかげである。山田先生や武田先生のきめ細かな調整により、年数回の会議が開催され、その都度、翻訳方針の打ち合わせがなされた。科研費や出版助成を申請し、採択を勝ち得たのは、武田先生の労力によるところ大であり、それがなければ十分な研究書も揃わなかったし、出張もままならなかったと思われる。海外からデカルト研究者を招聘し、シンポジウムやコロックなども開催し、国際的な場で、翻訳に関連する内容についても研究発表をさせてもらった。翻訳の草稿が出揃ってからは、複数人による相互チェックで、不備を補い合った部分も多い。今回の翻訳書は、哲学・科学史・文学という学際的なメンバーによる、チームワークでしかなしえなかったもので、人文学の成果の一つのあり方といって良いであろう。

こうした分担作業は、えてして、自分の担当部分だけに埋没してしまいがちだが、山田先生および武田先生という、全体を見渡してくれる、監督者の存在はたいへん貴重であった。こういった知的協力体制がとれるのも、これまでの日本における、デカルト研究の蓄積のたまものだと思う。

武田先生においては、夏山合宿までして、担当箇所の翻訳や理解について議論していただいた。きつい登山で味わった足の痛みと共に、今では貴重な思い出である・・・。

とはいえ、感慨にふけるには、まだ何か成果を出した気がしていない。デカルトの初期数学論について、部分的には理解したところもあるが、まだ哲学との関係や、全体を見渡した上での俯瞰的な見解には至っていない。「木を見て森を見ず」だったところを、私なりに研究して、デカルトの数学と自然哲学について、何か核心的な理解を得たいものである。


【追記】誤植訂正

細心の注意を払って校正したつもりでしたがが、自分の担当箇所にいくつかの誤りが見つかりましたので、以下のように訂正をお願いいたしします(2018年8月24日)。

デカルト 数学・自然学論集』誤植訂正

「立体の諸要素のための練習帳」

・123頁、最初の数式表の3行目、「108+120-44+21, 135」(誤)→「108+120-144+21, 135」(正)

・125頁、最初の数式表の3行目、「15|2+170+228+48, 282」の、「15|2」に付いている注59を「170」に移動し、注59「ヴァルスフェルは132に訂正」を、「「ヴァルスフェルは132+270に訂正」に訂正。〔この箇所はデカルトがそもそも誤っており、ライプニッツも計算が合わないと指摘している箇所で、ややこしい訂正となってしまいましたが、これでようやく計算が合います〕