labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

デカルト・セミナーと国際コロック。

1月14日は、午前はデカルト研究センターによるデカルトセミナー、Igor Agostini氏の新著『デカルトにおける神の観念』についての合評会に、午後は、急遽実施が決まった、Richard Serjeantson氏(trinity College, Cambridge)による、『規則論』の新草稿発見に関する報告会に参加してきました。

午前は、ジャン=リュック・マリオン氏の身体と精神に触れることができ、貴重な体験をしました。握手をして、マリオン氏のデカルト読解と報告した著者の解釈の批判を聴講しただけですけど、論文や著書の読書だけでは決して得られない、マリオン氏のパフォーマティブな知性を介間見ることができました。こういうところに敏感でなければ、哲学はやってられません。偉大な知性の一つのあり方に触れるというのは、至上の喜びであり、それがまた哲学研究の行程で目指すところだからです。単純に言えば、もっと賢くなりたいということで、それに尽きます。この日得られたものは、個人的体験として、大切にとっておきたいと思います。

午後は、カンブッシュネール氏も述べたように、驚くべき「事件」でした。これが公になれば、『規則論』と呼ばれてきたテキストの成立史が、全く書き換えられることになるのは間違いないでしょう。アムステルダム版、ライプニッツの写しによるハノーヴァー本に加え、第3のまったく独立でどちらとも異なる独自なケンブリッジ本が存在することになります。単に些細な異同しかなく比較参照の仕事が増えるだけという嘆きとともに伝え聞いた、Spruit氏が発見したスピノザ『エチカ』のバチカン草稿の比ではなさそうです。哲学史研究的には大事件のレベルです。

私が真に興味があるのは、哲学的部分についてですが、他の版との変更を比較分析することで、こちらの研究にも期待を感じさせるものがあると思います。デカルトが、どのような哲学的問題に直面し、逡巡し、何を採用し何を却下したのか、ケンブリッジ本の出版の暁には、より精密にわかることでしょう。

日本のデカルト研究者などの参考のために、今回の出来事の詳細を報告する機会があればぜひ致したいと思いますが、草稿発見者によるきちんとした報告の活字による出版を待ちたいと思います。したがって、報告の内容には今回触れないことにします。Serjeantson氏によるケンブリッジ本は、2013年にオクスフォード大学出版会から出る予定とのことです。フランスでの修論を『規則論』研究で書いただけに、私も出版が待ち遠しい限りです。なんにせよ、喜ばしい事件に違いありません。


さて、明日・明後日は、以下のコロックを聴講してきます。

”Quarante ans d'Etudes Cartésiennes”【pdf

さすがに、蒼々たるメンバーです。どういうわけか、直前になって公示されました。1月6日にソルボンヌに行ったときには案内はなく、張り紙に気付いたのは1月12日でした。

パリに来てからというもの、今やっている研究との関連で、偶然にもデカルトばかり勉強していたのですが、今週はデカルト祭りとなりそうです。