チェロとお見合い
チェロとお見合いしてきました。直観的にこれは良いものだなと思い、あっという間に恋に落ち、その日のうちに、スピード結婚。ここで出会ったのも何か偶然の縁。信じていない運命とやらを感じました。
富山にきてわりと間もない頃、チェロを再開したいという熱が冷めず、大学院〜フランス留学時代にほとんどできなかったために、溜まりに溜まったストレスのマグマがついに噴火。せめてもの余暇の楽しみにと、チェロのレッスンを再開してはや1年半が過ぎました。いつまでも先生からチェロをレンタルしているわけにもいかず、そろそろパートナーが欲しいと、昨年末から、オールドのチェロを探していました(結婚したい)。
レッスンを受けている先生の紹介してくれた信頼できる弦楽器店から、フランスのオールドのチェロを試奏させていただきました。少し弾いてみて、その音の素晴らしさに、驚嘆しました。これまで借りていたチェロも、マスターメイドのもので良いものだったと思うのですが、なんというか、段違いにイイ。200万円台クラスの新作も試奏してみたけど、こちらの方が良く鳴るし、音も私の好み。ネックも太すぎず細すぎず、ほどよくミディアムな私の手のサイズにピッタリ。触り心地も良い。
焼き印から、フランスはミルクール産、オーギュスタン・クロードAugustin Claudotの(1776-1843)作品と推定される。彼がリュティエすなわち弦楽器職人として活躍したのは19世紀前半ですし、他のチェロ製作年代から推測して、おそらく1830年頃に製作されたと思われます。クロード氏、なんと誕生年が私のちょうど200年前。何か縁を感じてしまいました。
William Henleyの "Dictionary of Violin and Bow Makers"によると、次のようにあります。
Augustin Claudot born Mirecourt 1776. Brother of Charles Claudot. Worked in Paris for some time. Workmanship excellent up to a degree. Large Lupot model. Yellow, chestnut brown or orange colour varnish of a clear texture. Good quality timber. Instruments favoured by orchestral players. Died 1843. Branded his instruments with his name, “Augustin Claudot.”
ほかの紹介もだいたい同様です。オレンジ色のニス、明るい肌理は見ての通り。質の良い木材。慎重に仕上げられた作品。製作ラベルの代わりに焼き印だけを押す独特のスタイル。楽器の形と素材、および妥協を許さない職人気質をイタリアの伝統から受け継ぎつつも、フランス的自己主張を含ませたチェロで、自分には向いているように思う。ミルクールの弦楽器製作職人の歴史の中でも、非常に高い評価を受けていることがわかります。
修理ラベルが内にあって、ベルギーのナミュールで、E. Dieudonnéというリュティエにより、一度修理を受けている模様。
右側板とf字孔に軽いひびの痕があり、不安になって状態を念入りに確かめたが、音には問題なし。裏板は完璧な状態で、先生によると音は裏板が命だそうで、ストラディバリウスなども、裏板を残してリストアされているものが多いとか。柔らかくクリアで美しい中・高音と、骨にまで響く深い重低音の双方を兼ね備えた、中古にしてはすばらしく状態の良い、見た目も美しいチェロです。各弦のバランスが良い。弦の移行によって、音に違和感がない。A線のパワーはそれほど強くないが、全体的に質の良い音がし、C線のパワーは別格で良く鳴り深い音がする。見た目の質感も最高。
Augustin Claudotの作品であることを示す特徴として、ボトムに次のような黒い線を入れるようです(バイオリンの例)。目立たないところですが、さりげない装飾をほどこすあたり、バロック精神に通じるところがあるような。そういえば、ネックのところも、裏板に当たるところだけ縁が黒く塗られています。まったく嫌みを感じない装飾で、フランス的オサレ。なるほどこれが、フランスの美的感覚の真髄、「エスプリ」espritというやつですかね(日本独特の美的概念として「いき」があるのに対して)。
チェロは大学2年くらいのときにはじめました。幼いころにピアノのてほどきは受けていたが、音楽はそれ以来なので、まったくの初心者からのスタートです(いや、そういえば、大学1年のときに、ちょっとギターをかじったこともあった)。中古のレコードで聴いた、若きロストロポービッチの演奏とその音に、衝撃を受けたのだった。カザルスなど無伴奏を聴いていくうちに、いてもたってもいられなくなり、安い中古のチェロを買いました。
その中古のチェロは、あまり鳴りは良くないものでした。不注意でネックも折ってしまったが、修理に出したら鳴りがむしろ良くなった。大学院にいってからは、チェロにあまり時間をとることができず、フランス留学していたときは金銭的にも時間的にも余裕がなくチェロを弾きたくても弾けなかったので、富山にきてから、ようやく念願がかなったといったところです。
私の場合、本格的にチェロをやるには、出会うのが遅すぎたけど、チェロは座ったままでも弾けるし、生涯楽しめる趣味としてはとても良いように思う。なので、遅くからでも音楽をはじめたいという方には、わりとオススメかもしれません。その際は、独学はもってのほか。きちんと基礎を固めるためにも、良い先生についた方が、変なクセがつかなくて良いと思います。
2014.01.18
富山は雨が多く、寒暖の差が激しいため、楽器の保存のためには良いチェロケースが必要と考え、BAM Hightech 2.9のチェロケースをcelloshopで購入。郵送料も結構かかり、ユーロ高がねたましい。これで、だいぶ資金力が低下してきた気がする。まだ大分貯金はあるが、人が車を買う代わりにチェロを買ったと思えばたいして変わらないし、状態の良いオールドなので車と違って価値は下がらないどころかむしろ上がるだろう。売らないけど。し、仕事がんばろう。
2014.01.23
納品書も受け取り、送金も済ませたので、晴れてこのチェロは私のものになった。すごくうれしい。
店主に電話で連絡して御礼と質問をいくつかした。f字孔のヒビは補修済み。側板については、状態としては問題ないので、そのままにしたということ。側板の隙間は気になるようなら、穴埋めしてニス補修してくれるそう。どうするかは、今後の状態を見て決めたい。
2014.01.26
celloshop.comにチェロケースを注文してから一週間が過ぎたが、まだ発送の返事が来ない。注文までの対応は良かったが。
2014.01.28
メールでは埒があかないので、スペインに電話してみたら、ドイツからの移送に遅れが生じており、遅くともあと10日で着くだろうとのこと。