labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

ファン・フラーセンの講演を聴きに行った。

Simulationの国際ワークショップでの発表でした(pdf.link)。といっても、いつも通り小規模で、小さいセミナー室に、参加者は15人ほど。アットホームな雰囲気ではどこにも負けない気がします。
聞きに行ったのは、もっぱらミーハーな動機。専門ではないけど、かのバス・ファン・フラーセンが発表するというので、一目拝んでおこうかと。せっかくだし、何か読んでいかないと恥ずかしいかなと、関心のあるLaw and Simmetryでも読んでおこうかと思ったけど、この時期、図書室がセミナー室と化していたり、そもそも図書室司書がformationで休んだり、外客の自分に冷たかったりで、借りられなかった。邦訳の『科学的世界像』は、残念ながら実家に置いてきてしまった。そこで、ネットで読めそうな文献を探して見つけた大西氏(科哲)の論文で、付け焼刃の予習をした。
ファン・フラーセンは、白髪・白髭、青いつぶらな瞳を持つ、イケメンおじいちゃんでした。フランス語、普通にしゃべってはった。発表題目は、"Empirical Grounding Through Physical and Virtual Experiment".
発表では、競馬における信念の改訂とオッズの変更を、どのように数学的にモデル化するのかという、経験と数学のあいだをめぐるハード・プロブレムに焦点を当ててました。競馬をやったことや見たことがある人にはすぐにわかると思いますが、最初の発表のオッズから、その後掛けた人たちの選好いかんで、オッズが変わっていきます。パドックとか、競馬新聞とか、他にも色々変数がありそうですが、オッズに絞るだけでも、数学的モデルを与えることは十分難しい。なにせ、あいまいなところの多い、人間の「信念」を扱うわけですから。デ・フィネッティほか諸説の検討を通じて、どれが一番合理的か、検討していました。いくつかキーワードがあった中で、やっぱり、「合理性」や「規範」という問題意識が強かったように思います。しばらく現代の科学哲学の勉強から離れていて、あんまり理解できなかったのが残念です。
むろん発表は、確率論や実験や統計データを用いたバリバリの科学哲学でした。さすがです。そこに痺れます、憧れます。発表後は、さすがに少しお疲れのご様子でした。今日のマルセイユは今年一番暑かったせいもあるかもしれません。それでもまだまだ現役のスターです。「経験」へのこだわりも、発表を通じて感じました。もっとも、科学に関わる限りの「経験」ですけれども。ライプニッツのせいではないですが、イデオロギー恐怖症なのか、どうも自分は立場というものにこだわれないのですが、きっちり立場を固定して、その研究を追求することは、とても大事なことだと思いました。そこから初めて、弁証法的で生産的な学的運動が生じるからです。
やっぱり確率論をやらないと、現代ではハナシにならないですね。この分野では、小手先のメタ的議論なんかやっても仕方ないことが、改めてよく分かりました。上澄みばかりをすくっても、なんの教養にもならない。
ファン・フラーセンの講演の音声録音をしましたので、もし欲しい人がいたら連絡してください。ただいま多忙なので、返信が遅れるかもしれませんが、ご容赦ください。発表は英語でしたのでご安心を。