labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

「西洋思想史」講義(2017年度・後学期)

今年もバタバタしているうちに、12月になってしまいました。

数年くらい試行錯誤をしていましたが、ようやく授業でも、人文系の学生にもわかってもらえそうなところで、自分の関心に近いところをやれるようになってきた気がします。

  • 哲学演習の授業では、論理学を教えたりもしていますが、半期制のため、入門どころか初歩の初歩のところまでしか進みません。様相論理や非古典論理については、発展的話題として多少は盛り込むことはできますが、その先にある、より面白いところまでやれない、もどかしい状況です。今後、クォーター制の導入がいよいよ本格的になったら、継続的な積み上げを要する学問はどうなるのでしょう。哲学について、どうやって段階的に知識を積み上げ、思考法や文献研究のノウハウを身につけさせていくのか。ある程度考えがあっても、それをカリキュラムに反映させるのが困難です。そもそも必要な語学を身につけているというレベルにないので、文献講読にいたっては、英書講読すら完全に崩壊しています。現状に適応していくしかない、という諦観があります。
  • 哲学講読の授業では、トゥーゲントハットらの『論理哲学入門』を邦訳で読んでいます。こちらは、当初演習室があふれるほど人数がいたのですが、どうやら大半がどういったことをやるのか、まったく内容を知らなかったらしく、初回の授業で半減しました。さらに、内容が論理的・分析的になっていくにつれ、一人、また一人と受講生が減ってきました。それでも、まだ7人くらいは出てきてくれているので、ましな方でしょうか。体系的で理論的な哲学や、分析的・論理的な思考を要する哲学ほど、学生が忌避する傾向にある気がして、ちょっと危機感を感じたりしています。
  • 哲学特殊講義では、「対象の哲学」をテーマにやっています。思考や意識の側にある対象である概念や知覚、そして事物の側にある対象である実在、これらのあいだにある緊張関係を問題として、哲学的に考察しています。前半の講義では、まず普遍論争をとりあげ、普遍(性質)の存在論に関する現代哲学を見ていきました。それから、穴や境界の存在論を検討しました。今は、私の関心により近い、境界や空間の認識論をテーマにしており、とりわけ視覚心理学や生態学的心理学の成果を参照しつつ、空間知覚を哲学的に考察しています。今後は、思考の対象としての概念をテーマに、講義していく予定です。これまでは、視覚的なイメージもあって、素人でもとっつきやすいところでしたが、いよいよ理論的に難しいところに入っていくので、学生がどこまでついてきてくれるか、自分がどこまで理解してわかりやすく説明できるか、ふんばりどころです。
  • 最後に、今学期の西洋思想史の授業でやっていることをまとめてみました。

テーマは「抽象の問題」、すなわち概念形成の哲学で、前学期から一貫してやっています。

昨年あたりから、前学期は初期近代における観念をめぐる論争を中心に講義し、後学期は近・現代を中心に概念や知覚をテーマとしてやっています。思想の連関も徐々にわかってきて、ようやく筋が通ってきたところですが、通年でとってくれる学生がなかなかおらず、後学期はどうしても人数が半減してしまいます。できれば通年でやりたいのですが、そのようなシステムになっていないのが残念です。めげずに、モチベーションがあるうちに、何らかのかたちで、成果をまとめてみたいものです。

12月からはフッサールに入る予定。

第一回 イントロダクション:抽象の問題とは何か(1)
 内容:抽象の問題あるいは概念形成の謎について、古代から初期近代の思想を概観した。
 参照:スライド

第二回 抽象の問題とは何か(2)
 内容:抽象の問題あるいは概念形成の謎について、近・現代の思想を概観した。
 とりわけ、現代のAI(人工知能)やロボット工学において、概念形成の問題をめぐる新しい展開があることを紹介した。
 参照:スライド

第三回 カッシーラーの概念形成の理論(1)
 内容:カッシーラーの生涯と思想について概説した。
 参照:直江清隆「カッシーラー」『哲学の歴史 第9巻 反哲学と世紀末 19-20世紀』中央公論新社、2007年、429-452頁。

第四回 カッシーラーの概念形成の理論(2)
 内容:カッシーラー『実体概念と関数概念』の第1章「概念形成の理論によせて」の内容を詳しく吟味した。とりわけ、実体概念に基づくアリストテレス主義的な伝統的な抽象の理論ないし概念形成の理論の枠には収まらない、論理学・数学の領域における概念形成として、関数概念や極限の概念があることを紹介した。
 参照:カッシーラー『実体概念と関数概念:認識批判の基本的諸問題の研究』、山本義隆訳、みすず書房、1979.

第五回 カッシーラーの概念形成の理論(3)
 内容:カッシーラーのシンボル主義およびシンボル的動物としての人間という捉え方を紹介した。また、そうしたシンボル主義から、空間概念の形成がどのように説明されているのかを検討した。
 参照:カッシーラー『人間』、岩波文庫
 *ミニレポート課題(1)概念形成に関するカッシーラーの主張をまとめ、自ら考察せよ。

第六回 J.S.ミルの心理主義
 内容:J.S.ミルの思想と生涯について概説した。とりわけ、ミルの心理主義の観点から、数や幾何学的図形などの抽象的対象がどのように説明されるのかを検討した。また、現代における心理主義の一つの展開として、視覚心理学における、ホフマンの知覚の構成説を紹介した。
 参照:スライド、J.S. ミル『論理学体系』(一)、大関将訳、春秋社、1949年。
 ドナルド・D. ホフマン、『視覚の文法―脳が物を見る法則』、原淳子・望月弘子訳、紀伊國屋書店、2003年。

第七回 フレーゲの論理主義(1)
 内容:フレーゲの思想と生涯について概説した。とりわけ、フレーゲの「論理主義」との関連で、中心的な著作の主張と成果を概観した。
 参照:金子洋之「フレーゲ」『哲学の歴史 第11巻 論理・数学・言語』、中央公論新社、127-196頁。フレーゲ「意義と意味について」[1892]

第八回 フレーゲの論理主義(2)
 内容:フレーゲの代表的な論文である、「概念と対象について」を詳しく検討した。
 参照:フレーゲ「概念と対象について」[1892]

第九回 フレーゲの論理主義(3)
 内容:フレーゲの思想を集約している講演である、「関数と概念」について詳しく検討した。
 参照:フレーゲ「関数と概念」[1891]
 *ミニレポート課題(2)関数・概念・対象に関するフレーゲの思想をまとめ、自ら考察せよ。

第十回 フッサールの抽象の現象学(1)
 内容:フッサールの思想と生涯について概説した。
 参照:榊原哲也「フッサール」『哲学の歴史 第10巻 危機の時代の哲学20世紀I 現象学と社会批判』,中央公論新社,2008年,101-175頁.

第十一回 フッサールの抽象の現象学(2)
 内容:フッサールの『算術の哲学』における心理学主義から『論理学研究』における心理学主義批判への思想の転換を説明した。とりわけ「理念化的対象」の概念を『論理学研究』のテキストに即して検討した。
 参考:フッセール『算術の哲學』寺田彌吉訳,モナス,1891年.
 フッサール『論理学研究』立松弘孝訳,みすず書房,1:1968年,2:1970年.

第十二回 フッサールの抽象の現象学(3)
 内容:フッサールの抽象の現象学について、J.S.ミルやロックら経験主義的学説と対比しつつ検討した。
 参考:フッサール『論理学研究2』立松弘孝ほか訳,みすず書房,1970年.
 フッサール現象学の理念』立松弘孝訳,みすず書房,1965年.

第十三回 ギブソン生態学的心理学(1)
 内容:J.J. ギブソンの思想と生涯について概説した。また、前期ギブソンの視覚空間論について検討した。
 参考:トマス・J. ロンバード『ギブソン生態学的心理学―その哲学的・科学史的背景』古崎敬・境敦史 (監訳)、河野 哲也 (翻訳)、勁草書房、2000年。
 ギブソン『視覚ワールドの知覚』 東山篤規・竹澤智美・村上嵩至(翻訳)、新曜社、2011年。

第十四回 ギブソン生態学的心理学(2)
 内容:ギブソンの代表的著作『生態学的視覚論』における空間概念の形成およびアフォーダンスの理論を、カントの学説と対比しつつ検討した。
 参考:ギブソン生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る』古崎敬 (翻訳)、サイエンス社、1986年。
 佐々木正人アフォーダンス岩波書店、新版、2015年。

第十五回 ギブソン生態学的心理学(3)
 内容:ギブソンの代表的著作『生態学的視覚論』における情報抽出の理論を検討し、これまで授業で扱ってきた伝統的・古典的学説と対比しつつ、ギブソンにおいて概念形成の問題がどのように捉えられているのか検討した。
 参考:ギブソン生態学的視覚論―ヒトの知覚世界を探る』古崎敬 (翻訳)、サイエンス社、1986年。

*期末レポート課題

次の二題から一題を選択し,1,000字〜2,000程度のレポートを書いてください.
(1)フッサールが『論理学研究』において,自らの現象学によって,どのように抽象の問題に対してアプローチしているのかについて,伝統的な認識の理論と対比しつつ考察しなさい.
(2)J.J.ギブソンアフォーダンスという考えを用いて,どのように知覚や概念の形成という問題に対してアプローチしているのかについて,伝統的な知覚理論と対比しつつ考察しなさい.

「コンパスの意義と代数的思考様式の展開−−初期デカルトの数学論を中心に−−」誤植と訂正

『理想』2017, No.699「特集 デカルト」所収の拙論文に、以下の誤りがありました。

訂正してお詫びいたします(切腹最中)。


理想 第699号(2017) 特集:デカルト

理想 第699号(2017) 特集:デカルト


池田真治「コンパスの意義と代数的思考様式の展開−−初期デカルトの数学論を中心に−−」『理想』2017, No.699「特集 デカルト」、pp. 70-85


Errata

  • p. 82 下段 訂正前:「今、p=2S-4, q=2F-4とする。ただし条件よりp, qは自然数である。これらから2S – 4 = pFと2F – 4 = qSが得られる。」→訂正後:「これらから2S – 4 = pFと2F – 4 = qSが得られる。ただし条件よりp, qは自然数である。」
  • p. 83 上段 訂正前:「着眼的」→訂正後:「着眼点」

数理哲学史夏期合宿セミナー2017(詳細版)

数理哲学史夏期合宿セミナー2017
日程:9月22日-24日
場所:草津セミナーハウス C研修室
主催:数理哲学史研究会
主催者:池田真治(shinji[+at+]hmt.u-toyama.ac.jp)
助成:科研費JP16K02113


参加予定者

藤田博司愛媛大学)、三宅岳史(香川大学)、久木田水生(名古屋大学)、山田竹志(東京大学)、稲岡大志(神戸大学)、鈴木佑京、高橋優太名古屋大学)、那須洋介(名古屋大学)、阿部皓介(東京大学)、池田真治(富山大学


発表者・発表題目(*はゲストスピーカー)

  • 藤田博司*:「ルベーグ積分論の登場とその前後」
  • 三宅岳史*:「多様体の哲学の系譜をさぐる」
  • 久木田水生:「数学はどれくらい普遍的か?」
  • 山田竹志:「不完全性と無際限拡張可能性」
  • 稲岡大志:「Charles Parsons から遠く離れて?」
  • 鈴木佑京:"Proof-Theoretic Validity for Bilateral Classical Logic"(山形頼之・産総研との共同研究)
  • 高橋優太:「ゲンツェンによる算術の無矛盾性証明とヒルベルト・ブラウワー論争」
  • 那須洋介:「論理主義と構造主義
  • 池田真治:「ライプニッツの無限小概念再考」


スケジュール
9月22日(金)
 16:00:現地集合
 16:00-17:30:研究発表会
 17:30-18:30:夕食
 18:30-20:00:研究発表会

9月23日(土)
 8:00-12:00:研究発表会
 13:00-17:30:研究発表会
 17:30-18:30:夕食
 18:30-20:00:研究発表会

9月24日(日)
 8:00-12:00:研究発表会
 12:00-13:00:昼食
 13:30-14:30:草津温泉
 15:00:解散


注意事項
会場までの往復交通費、宿泊費、食事代等は、各自負担にてお願いします。
(招待講演者及び科研費や学振など補助金を受けていない若手に関しては、旅費を補助致します。)
旅費の支援を受ける方は、当日、ハンコ(認印)をご持参ください。
参加者は、原則、セミナーハウスに宿泊となります。
なお、寝間着、歯ブラシ、歯磨き粉、タオル等はご持参ください。
門限があり、21:50ですので、ご注意ください。

数理哲学史夏期合宿セミナー2017

今年も夏がやってきました。
一昨年・昨年に引き続き、下記の日程で第三回目の数理哲学史夏期合宿セミナーを実施いたします。
参加者は各自、数学あるいは数学の哲学や歴史に関して何らかの研究発表をします。
今年はゲスト講師による講演も予定しています。
昨年も草津温泉で打ち上げをしました。

数理哲学史夏期合宿セミナー2017
日程:9月22日-24日
場所:草津セミナーハウス C研修室
主催:数理哲学史研究会

予定

9月22日 16:00-19:00
:研究会

9月23日 8:00-12:00, 13:00-18:00
:研究発表会

9月24日 8:00-12:00
:研究発表会
 昼食後、草津温泉
 解散

会場までの往復交通費、宿泊費、食事代等は、各自負担にてお願いします。
科研費や学振など補助金を受けていない若手に関しては、旅費を補助致します。)
参加者は、原則、セミナーハウスに宿泊となります。
なお、寝間着、歯ブラシ、歯磨き粉、タオル等はご持参ください。
門限があり、21:50ですので、ご注意ください。

最近の作物

ブログではご無沙汰しています。

およそ一年も空けてしまいました。この一年にはいろいろなことがありました。
最近、ようやく研究の調子も上がってきそうな気配がしていますので、
またブログの方も充実させていきたいと思います。

とりあえず、最近書いたものでも紹介します。

コンパスの意義と代数的思考様式の展開 ―初期デカルトの数学論を中心に―

『理想』699号のデカルト特集号に掲載される予定のプレプリントです。一年前に数理哲学史夏期合宿セミナーで発表したり、国際デカルトコロックで仏語で発表した原稿を元に書き直した論文の草稿です。書くのに非常に苦労しましたが、まだまだ詰めが甘いところもあるので、ご批判いただけたら幸いです。

虚構を通じて実在へ――無限小の本性をめぐるライプニッツの数理哲学――

2017年三月に行われた、日本ライプニッツ協会2017春季大会でのシンポジウム「ライプニッツ数理哲学の最前線」で発表した原稿を元に書き直した論文の草稿です。もう少し後半のエウスタキウスの部分を詰めたいところです。

「パパンとの往復書簡」解説

工作舎より刊行される『ライプニッツ著作集 第 II 期第3巻 技術・医学・社会システム』に収録予定の「パパンとの往復書簡」について解説したものの草稿です。17世紀後半から18世紀初頭にかけて活躍した科学者で、蒸気機関の発明者の一人として知られるドゥニ・パパンの生い立ちや発明家としての業績を概説しました。とりわけ、翻訳とも関連するライプニッツとパパンによる蒸気機関の共同開発に焦点を当てました。

万能人ライプニッツ

丸善出版より出版される『ドイツ文化事典』に収録される予定の原稿の初稿です。なかなか字数制限が厳しく、無難にまとめた感じになり、思ったように特色を出すようには書けませんでしたが、面白く読めると思います。

数理哲学史夏期合宿セミナー2016開催報告

9月2日〜4日、草津セミナーハウスにて、数理哲学史夏期合宿セミナーを開催しました。

参加者各位によって、最新の研究活動に関する意欲的な発表が行われました。
活動内容と発表タイトルは以下の通りです。

【初日】研究会
カッツ『数学の歴史』第2章輪読(担当:稲岡大志)

【二日目】研究発表
那須洋介「数学の基礎としての圏論の歴史」
・久木田水生「圏論的基礎をめぐる論争」
・鈴木佑京「ネルソンの哲学」
・五十嵐涼介 "A Formalization of Kant's Logic and its Model"
・山田竹志「不完全性と無際限拡張可能性」
・稲岡大志「ライプニッツの空間はいくつあるのか」

【三日目】研究発表
・池田真治「デカルトのコンパスと代数的精神」
・阿部皓介「問題概念の歴史素描---近世問題論のための予備的考察---」

数理哲学史夏期合宿セミナー2016

今年も夏がやってきました。
昨年に引き続き、下記の日程で第二回目の数理哲学史夏期合宿セミナーを実施いたします。
参加者は各自、数学の哲学や歴史に関して何らかの研究発表をします。昨年は草津温泉で打ち上げをしました。

数理哲学史夏期合宿セミナー2016
日程:9月2日-4日
場所:草津セミナーハウス D研修室
主催:数理哲学史研究会

予定

9月2日 16:00-19:00
:研究会

9月3日 8:00-12:00, 13:00-18:00
:研究発表会

9月4日 8:00-12:00
:研究発表会

参加者:阿部皓介、五十嵐涼介、池田真治、稲岡大志、久木田水生、鈴木佑京、那須洋介、山田竹志の8名【確定】

また、シンポジウムや翻訳・出版など今後の活動方針について会議を行う予定。

昨年は、みっちりタイトなスケジュールで、なかなかハードな合宿でした。
解散後の打ち上げとして、草津温泉に入り、疲れを癒やしてから、各自帰路につきました。
とても充実した3日間でした。