labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

17世紀西欧哲学における「数学」の位置づけ(2)

ゴクレニウスの『哲学辞典』の後に出されたアルシュテッド(Johann Heinlich Alsted)の『要約哲学辞典』(Compendium Lexici Philosophici, 1626)では、数学(Mathematica)は、聖霊学(Pneumatica)、自然学(Physica)とならんで、事象の近接的原因を探求し学知をもたらす体系である「スキエンティア」(scientia)すなわちエピステーメーの学として位置づけられている(p. 1783)。

数学は、純粋すなわち抽象的な量について扱う算術と幾何学と、ある質料における具体的な量について扱う宇宙形状誌(cosmographia)や上位の世界を扱う天文学、下位の世界を扱う地理学、そして同様に、光学、音楽、建築学がある、としている。ここら辺は、ゴクレニウスを単純に踏襲しているだけである。

次に、ミクラエリウスの『哲学辞典』(Lexicon Philosophicum, 1661)における「マテーシス」と「数学」の項を参照してみよう。

「「マテーシス」(MATHESIS)は、一般には、あらゆるディシプリンあるいは術として考えられているもので、学問の3つの原理、すなわちピュシス、マテーシス、アスケーシス[演習]のあいだに置かれる。「マテーシス」は特殊には、数学(scientia mathematica)と言われ、証明や原理、および大きさや数の性質を説明するものである」

すなわち、マテーシスは広義には学問・術として成り立っているものすべてを指し、狭義には数学を指す。ゴクレニウスが数学をむしろ「術」(ars)したがってその学問の方法を教える体系であるテクネーに結びつけていたのに対して、ミクラエリウスは数学を真理認識に関わる「学」(scientia)に結びつけている。

続けて、「数学」(Mathematica)の項。

ミクラエリウスもまた、ゴクレニウスにおける数学の定義を踏襲し、「数学は純粋であるか混合であるかである」とする。

純粋数学は、ある基体すなわち感覚的質料を除いて、思惟された(noeta)量を考察する」とあるように、ここでも、感覚的質料を抽象した量を扱う学問として、純粋数学が考えられている。

「その思惟された量が図形において連続的(conjuncta)ならば、幾何学と言われ、数において離散的(disjuncta)ならば「算術」と言われる」。抽象的・概念的な連続量を扱う学として幾何学があり、離散量を扱う学として算術が捉えられていることが、簡潔に表明されている。

純粋数学が抽象的な量を扱うのに対して、「混合数学(Mathematica mixta)は具体的・感性的かつ質料に浸された量について扱う」。混合数学に含まれる学問については、ゴクレニウスの説明よりも、大きな進展があるように思われる。
混合数学には、天文学や光学、測地学、音楽、機械学が属する。さらに天文学には、時間の測量に関して、計算(Computus), 年代記(Chronographia)、日時計(Gnomonica)が属する。また探索水準器による星の距離に関して、Meteoroscopiaが属する。光学の部分には、鏡制作(Specularia)や投影(Sciographia)が属す。測地学には、平地測定(Planimetria)と体積測定(Stereometria)が属す。機械学には、Organopoetica, Thaumatopoetica, Centroponderantia, Sphaeropoeiaが属す、としている。

ミクラエリウスが提示した機械学の分類には、Adriaan van Roomen (1561-1615)における数学の分類が反映されているようだ。しかし、van Roomenにおける数学の分類はもっと精緻である。

「16-17世紀における数学的学問と普遍数学の分類:Adriaan van Roomenの思想」要旨PDFでつい最近博士論文を書いたZ. V. Oliveira氏によると、以下のようにある。

In the present study, I analyzed works Universae Mathesis Idea (1602) and Liber primus of Mathesis Polemica (1605), which contain short descriptions of the 18 disciplines van Roomen called as ‘mathematics’. Such disciplines were divided in two groups: principal mathematics, in turn subdivided in pure (logistics, prima mathesis, arithmetic, and geometry) and mixed (astronomy, uranography, chronology, cosmography, geography, chorography, topography, topothesis, astrology, geodesy, music, optics, and euthymetria); and mechanical mathematics (sphaeropoeia, manganaria, mechanopoetica, organopoetica, and thaumatopoetica) that were related with the use and construction of machines, a subject in turn directly related with mathematical instrumentation, which underwent significant development at that time. (太字強調筆者)


van Roomenでは、純粋数学と混合数学というこれまでの数学の分類は、「第一数学」に下位分類されるものとしてくくられ、混合数学から機械学が分離され、新たに「機械的数学」という分野が設けられていることに注目したい。

これら数学的諸学問を含む「数学」概念の広がりが、17世紀の普遍数学思想の形成に大きく関わっていたと見るべきだろう。(つづく)