labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

ペアーノ学派

そう言えば昔、ペアーノ算術と同値になるシステムがいくつかある、というのをElena Marchisotto先生から教わったのを思い出した。その話によれば、パドアやピエーリは、ペアーノの論理主義をよりラディカルに受け継ぎ、ペアーノの5つの公理と同値になり[本当か*1]、論理学としてより厳密な体系を構想したということです。彼らは「ペアーノ学派」と呼ばれるようです。以下はどこぞで紹介したのを若干修正したのを再掲載したものです。書き間違えた可能性が高く、原典はまだ確認できていません。

Peano's System(1891)

Primitives: N, 1, successor, is equal to

PA 1: 1∈N

PA 2: ∀n∈N (n+1∈N)

PA 3: ∀m,n∈N (m+1=n+1⇒m=n)

PA 4: ¬(1∈{x+1|x∈N})

PA 5: [1∈K & {x+1|x∈K}⊆K] ⇒ N⊆K

ペアーノ自身は後続者の操作記号として"+1"を使っている。1889年の論文「算術の原理Arithmetices principia」ではそうなっていることが確認できる*2。ただし、「記号 a+1 は“aの後続者”あるいは“a足す1”を意味する」とあるように、あくまで“+1”は記号として考えていた(Ibid.)。「記号体系」としての算術の思想は、その論文の序文で述べられた次の言明に顕著である。

わたしは算術の諸原理に現れるあらゆる観念を記号によって表示する。それは、あらゆる命題がこれら記号によってのみ言明されるようにである。(Ibid., p. 85)

わたしはいかなる学問の命題も、その学問の対象を表現する記号が与えられたならば、これら論理学の記号のみによって表わすことができると考える。(Ibid., p. 86)

1889年の論文では公理は全部で9つある。上述のPA 1〜5に加え、同値の公理(反射律、対称律、推移律)と“a=bかつb∈N⇒a∈N”である。同一性に関わるこれら4つの公理は、現在では論理学に属すものとして省略するので、本質的にはPA 1〜5の5つの公理が、ペアーノ算術の公理である。表記もa, bとかε*3とか使っているけど、この際、現代的表記に統一した。量化子も補足した。
定義10で、“2=1+1; 3=2+1; 4=3+1;and so forth”, および
定義18で、“a, b∈n ⇒ a+(b+1)=(a+b)+1”,
とあるのが, 加法の定義になっている。つまり、定義10は、“∀n∈N (n'=n+1)”で、すべての自然数に名前をつけてやるもので、また定義18は“∀n,m∈N [n+m'=(n+m)']”を意味する(Ibid, p. 94-95.)。これらは加法の再帰的定義を与えている。ただし、ペアーノは、デーデキントの定理126*4のように、再帰的定義を正当化する定理を持っていなかった(Heijenoort[1967], p. 83)。また、ペアーノの体系は代入の規則および推論規則の定立を欠くなど、論理学的な欠陥があった(ibid., p. 84)。

Padoa's System(1902)

Primitives: N, successor, [is equal to(?)]

PD 1: ∀n∈N (n'∈N)

PD 2: ∀m,n∈N (m'=n' ⇒ m=n)

PD 3: ∃z∈N ∀y∈N (y'≠z)

PD 4: [∃z∈K ∀y∈N (y'≠z) & ∀x∈K (x'∈K)] ⇒ N⊆K

Pieri's System(1907)

Primitives: N, successor, [is equal to(?)]

[ピエーリの公理は、書き間違えた可能性が高く、原典等で確認できなかったので今回は省略します。ごめんなさい。Marchisotto & Smith[2007]におそらく述べられているとは思います。]

原初的対象として措定されているものを見れば明らかなように、パドアやピエーリの体系では、自然数"1"を前提しなくともボトムが保証される。"1"はそのボトムの名前として、後から名づければいいことなので(PD 3のzを"1"で例化したものがPA 4となる。また逆にPA 1, PA 4を存在量化したものがPD 3となる)。そこからまた後続者の操作記号を“+1”ではなく、後続者関数(ここではプライムで表記)で考えている。

公理体系は、3年前のセミナーで聴いたものを走り書いたメモなので、果たしてその通りなのか、それほど信頼できません。また、ペアーノ、パドアとピエーリの原典論文は手持ちのわずかな資料等ではとても確認できませんでした。確認出来ましたら、後に更新したいと思います。ここでは、そういう埋もれた話もあるぞ、というのを紹介したまでです。ここら辺は数学史的にも面白いところかもしれませんね。誰かやってほしいなあ。
例えば、Heijenoort[1967]以外には、未見ですが、以下の本が参考になるかもしれません。

Dee Ann Gillies and Donald Gillies [1982]. Frege, Dedekind, and Peano on the Foundation of Arithmetic, Assen, Netherlands: Van Gorcum.

I. Grattan-Guinness [2000]. The Search for Mathematical Roots, 1870-1940: Logics, Set Theories and the Foundations of Mathematics from Cantor through Russell to G"odel, Princeton university Press.

Hubert Kennedy [2002]. "Twelve articles on Giuseppe Peano" (PDF). San Francisco: Peremptory Publications. Retrieved 25 November 2009. Collection of articles on life and mathematics of Peano (1960s to 1980s).

Elena Anne Marchisotto and James T. Smith [2007]. The Legacy of Mario Pieri in Geometry and Arithmetic, Birkh"auser, Boston.

*1:PAとPDの同値は、PA 2とPD 1、PA 3とPD 2が一緒だし、PA 1 & PA 4 ⇔ PD 3となる。残りのPA 5とPD 4も本質的には同じことを言っている。

*2:Jean van Heijenoort[1967], From Frege to Goedel: A Source Book in Mathematical Logic, 1879-1931, Harvard University Press, p.94.

*3:“est”(である)のeからとっているようだ。

*4:デーデキント[1888]、「数とは何か、何であるべきか」、『数について』、岩波文庫、1961年、p.106-107.