labyrinthus imaginationis

想像力ノ迷宮ヘヨウコソ…。池田真治のブログです。日々の研究のよどみ、そこに浮かぶ泡沫を垂れ流し。

ライプニッツの歴史研究の方法論

ライプニッツ研究』所収、佐々木先生の論文を読んだ。以下は、twitterでの感想メモをまとめたもの。

佐々木能章、「ライプニッツは歴史をどう語るか」、『ライプニッツ研究』創刊号、日本ライプニッツ協会、79-98頁。


 「歴史家」ライプニッツの歴史研究の方法論を哲学的観点から分析。写しより直接的観察を重視するロックに対して、ライプニッツは史料の整合性を規準にし、信頼できる史料のみを使用することで、歴史から最も有益な教訓を引き出すことを是とする。すでに阿部謹也は、ハーメルンの失踪事件の伝説について、ライプニッツの<伝説の背後にある歴史的真実を追求する姿勢>を高く評価していた。

 有益な教訓を抽出することで綴られる歴史として、ライプニッツは「普遍的歴史」を構想した。歴史の真理には常に蓋然性の問題が付きまとうが、ライプニッツは記号と計算の導入により蓋然的事象を救おうとしたように、信頼に足る史料の整合性を追求することで過去の出来事を構成できると考えた。

 真理の観点では蓋然性に消極的なデカルトは、そもそも歴史家たり得なかっただろうし、ロックは直接的観察に基づく事実の記述こそが重要としたので、伝説の背後にある歴史を不確かな史料に基づいて探究する方法をとれたのは、ライプニッツならではで、当時としては珍しかったのであろう*1

 しかし、佐々木先生が、「歴史家」ライプニッツの方法論の独自性を主張したいならば、歴史の専門家ではない哲学者たちではなく、実際にプロでやっている歴史家と比較すべきではなかったか。ただ、この論文は、ジョン・ロック研究会でのご発表が元なので、致し方ないことでしょう。ロックの歴史観との比較が、佐々木先生の論文のメインですから。
 

 「歴史から最も有益なものを引き出すことにとりわけ専念する人々がいることを私は切望いたします」(ライプニッツ)。

 
蘊蓄の羅列にとどまるのではなく、関連性と重要性を伴う歴史の研究から、徳や生活の便利さなどの<善>を最大限引き出すことに、ライプニッツは歴史研究の価値を見出したのである。

後述:佐々木先生によれば、ライプニッツ全集の歴史に関する著作はいまだ一巻も出ていない、とのことでした。ライプニッツ全集のHPで確認してみたところ、まったくその通りでした。Vorauseditionすら出ていません……。どないなっとるんでしょう。
http://www.leibniz-edition.de/Baende/ReiheV.htm
数学著作集も、1676以降がまったく出ていないありさまで、ちょっと困りました。
パリ期でがんばるしかないのかな。
そこら辺を考慮して、ホフマンを読んで、数学史鍛えるかな。

*1:この論点は、twitter account: patho_logicさんのご質問から示唆を受けた。ここに記して感謝したい。